2017年3月27日
やわらかく戦闘機君の胸にあて「街は撃てよ」と囁いており

東京で暮らし始めたのが2008年。今年で9年目になる。
見知らぬところをふらふらと散歩したとしても、必ずどこかの駅へ辿り着くことができる便利さと安心感が、東京の一番好きなところ。

短歌の出典:陣崎草子『春戦争』

2017年3月26日
忘れ得ぬ心みたりし春のこと千の椿の葉の照りかえし

帝釈天の欅の彫刻が実に見事だった。人生の大先輩らと「東京にこんなところがあったんだね」と言いながら。

短歌の出典:馬場あき子「桜花伝承」

2017年3月25日
食べてみたいそれは勝手に溶けたから私を冷やしてゆきながら

吉村昭「少年の夏」を読んだ。最近の読書の中で最も心に残る短編だった。
 
短歌の出典:自作

2017年3月24日
病む我の昼餉の蜜にかよひくるミツバチよ今日は早すぎたね

一泊二日の伊豆旅行へ出かけた。帰りに、みんなでいちご狩りへ行った。
暖かいビニールハウスの中に赤白緑、大小さまざまないちごが実っている。練乳の入ったプラスチックの容器を片手に、思い思いにいちごを頬張る。
 
ハウスの中にはミツバチがいた。セイヨウミツバチだ。昔、父がミニトマトの栽培をしていた頃、同じ種類のハチが実家のハウスにいた。
働く彼らが忙しなく巣を出入りする姿を見つめながら、その当時の思い出を呼び起こそうとしてみたが、あまりはっきりとしたことを思い出すことはできなかった。ただ、ハウスの中の室温だけはその時と同じような具合に、体を温めているように思われた。
 
そのハウスは6年前の津波ですっかりやられてしまい、ただの骨組みとなってやませに吹かれてゐると聞く。
 
短歌の出典:相良宏『相良宏歌集』

2017年3月23日
青森のひとはりんごをみそ汁にいれると聞いてうそでもうれしい

火曜日に食べたバゲットが絶品で、水曜日に食べたバゲットがあんまりだった。
だからきみには火曜日のバゲットのことだけを話そう。
 
短歌の出典: 雪舟えま『たんぽるぽる』

2017年3月22日
胡麻はまだ女性の言葉と思われて定義の海に溺れずにいる

目を覚まして数分間、そのまま何もせずにじっとしている。
やりたいことも、やらなければいけないことも、すべてを「」の中に放り込む。
そこに残った自分自身の中で、取り留めのないものたちが想起され、消えてゆく。
夢だって、もっと整然としているだろう。
鼓動は変わらず、心臓の音だけが大きくなる。
秩序はないが、実体がある。そういう不可思議なものに成り果てて、心からなにかが剥がれてゆく。
そういう時間を我が物にできる日のことを休日と呼んでいる。

2017年3月21日
蜂の巣の標本よりも死に近い蜂蜜たちの生まれるところ

「それは誰かから貰ったの?」
あっ、と思う。たしかにそれはある人に貰ったハンカチだった。
僕の雰囲気とよく合っているらしい。我ながら僕もそう思っている。
あまりに馴染んでいるものだから、すっかり自分が選んだものであるとばかりに錯覚していた。
そのハンカチを初めて手にした時に、贈り物が上手な人だなと思った。
その少し前に、僕もその人に贈り物をした記憶があるけれど、その人のように上手にはできなかったはずだ。
僕たちはたった一度の贈り物の交換をして、それきり疎遠になった。
理由はよく覚えていない。
ケンカも、友達以上の付き合いもなく、それきり。
 
どうして貰い物だということが、分かったのだろう。
贈られた当の本人は、すっかり忘れてしまっていることなのに。
その理由が聞いてみたかったけれど、僕はとっさに「自分で買ったものです」と嘯いてしまった。
何かが明らかになることを恐れたのかも知れない。

短歌の出典:自作